中学2年生の頃に僕は空手を習っていました。今思うと、僕が今ジャズをやっているのはその空手の先生の影響も凄くあると思います。当時僕はギターを弾き始めて2年くらいで、Larry Carltonとかは聴いていたけれども、Joe Passとかそういったジャズは聴いていませんでした。Joe Passの入りは完全に空手の先生でしたね。ある時、空手の大会のランチの時に「ギター弾いてる」って言ったら先生が「俺も弾いてる」って。空手の先生が「どんな音楽聴くんや?」って。僕はロックを聴いているというと、「ロックなんか聴かないでジャズを聴け」って(笑)「聴いた方がいいよ」じゃなくて「聴け」って言うんです(笑)空手の時はやっぱりちょっと怖かったんで、僕も「はい」って(笑)それから「家に来なさい」って言ってくれて。空手の時はちょっと怖い先生だったんですが、家に行ってみると空手の話は全然しないので、不思議と全然怖くなかったです。まず今思うと良かったのは、先生の家には、ストラトがあって、Fenderのチューブ(真空管)のアンプも。それからGibsonのSuper 400が2本あって。「なんで同じギターが2つある?」最初意味が分からなかったです。先生の話だと、1つはピックアップ付きのものを買ったら音が硬かった。そこでわざわざギブソンにピックアップのないやつ頼んで買った、と。で自分でフローティングのピックアップを買って付けたらトーンがそっちの方が良かったって。そう言われても当時は「なんで同じものが2本あるの?」分からなかったですが、今思えばそこから僕の「こだわり」のコンセプトに繋がっていったように思いますね。先生の家に遊びに行くと、まずジャズのレコード聴かされました。またギタリスト以外にメロデイーの素晴らしい、他の楽器についても教えていただきました。ステレオもチューブのMarantz製!最初から良いトーンで(笑)。

その先生に60分のテープを3つ作ってもらいました。バラード編、ブルース編、ミディアムテンポ編。全部スタンダード曲ばっかり。全て、Joe Pass、Barney Kessel、Kenny Burrell、Wes Montgomery、Jim Hall、Grant Greenとか有名なジャズ・ミュージシャン達。僕はしばらくその60分のカセットテープ3つしか持ってなかったんで、最初はそれだけ何回も聴いてましたね。この3本のテープが、僕のジャズの財産になりました。ここに90分テープにされてたら人生が変わってたと思います。“量よりも質”これは、何でもそうですが凄く重要(僕にとって) 。寝る時に片面30分を聴いていて、ちょうど寝る頃に聴き終わる感じでした。なので今日はA面、明日はB面という感じで、同じものを何回も聴いていました。

そのうち空手の先生に「これはどうや、あれはどうや」と色んなレコードやフレーズを聴かされて、毎週日曜日になると先生の家に行っていました。毎週、ジャズのフレーズとコードを。先生は独学だったので理論とか知らなかったようですが、スケールとか紙に色々アイデア書いて頂きました。良い事いっぱい書いて頂きました。その中に、聴くことの大切さ、録音することの大切さが書いてありました。で、順番に大事なことが書いてあり、(1)から(10)ぐらい?で(10)は、“自分の演奏を必ず録音して聴き返す事、でガッカリするから、(1)からやり直す事” レヴューすることの大切さ。

先生はケニーバレルがお好きだったんで、僕にケニーバレルばっかり聴かせてくる(笑)でも僕はジョーパスが好きになりました(笑)そこでジョーパスのテープもいくつか作ってもらいました。先生が最初に聴いたのはバーニーケッセル。そのせいか「ケニーバレルが好きや」っていうわりに、弾き方がバーニーケッセルそっくりで(笑)本人はケニーバレルみたいに渋くいこうと思ってるものの、フレーズがハネてる(笑)本人は「最初の影響は凄い」って笑われてたの覚えています。
Chet Bakerも聴かされましたね。なぜかというと「音数が少ないから」。いつもセッションじゃないですけど、一緒にギターデュオみたいなことをやってました。先生も僕も理論とか知らないので、ジャズブルースとかよく分からないまま弾いて。「リズムギター弾け」って言われて僕も弾いて見よう見まねで弾いて。そのうち先生は「ソロ弾け」って。弾いてると「音数多い、やめろ」って(笑)そしたら「レコード聴こう」って言われてレコードを聴きました。先生はいつもレコードをソファにじっと座って聴いてるんです。ギター持ったりしない。ただじっと座って聴いてるんです。最初僕は、先生が集中して聴かれてるんで、どうしていいか分からなかったです。でもそこで「聴き方」を学びました。そうやって1日が終わって。こうやっていつもリズムギターとかも弾かされて。先生は「このソロが良いから学べ」って。「なんで良いか分からんからお前学べ」って(笑)で見よう見まねで学びました。最初は空手の先生でしたが、時間が経つにつれてどんどんギター仲間みたいになっていきました。そんな感じで今思うと、理論を知らない先生なのが逆に良かったです。なのでジャズは、サウンドから入りました。毎週日曜日になったら先生の家に行ってて。今思うと、これはほとんどレッスンでした。それからもうひとつ面白いのは、先生の家の横に電車が通ってて。で、踏切の音が鳴ると、その音でチューニング(笑)踏切が鳴ったらチューニングのお時間(笑)これも今思うと、耳のトレーニングになっていました。その先生がだんだん僕の事を好きになってくれて。音楽大学へ行きたいと言った時も、強くプッシュしてくれました。

空手の練習の後に、一度僕の家に遊びに来て。僕の家にあった安物のクラシックギターを弾かれたんですが、そのギターで凄く音で弾かれてて。「なんでこんな弦高たかいのに弾けるんや」って凄く不思議でしたね。これも良い経験でした。

アメリカに行く前に、今でも覚えています。ホテルにデイナーに連れて行って頂きました。で、“藤田、ナンバーワンなんかどうでも良い、オンリーワンになりさい!” マイペースでいくこと、比べない事、空手からギターに良い教訓頂いたように感じます。

それから、”藤田、お前の良い所は(良い意味で)図々しいところや!” と言われたことも覚えています。これもただ図々しいのはよくないですが、僕自身純粋に知りたくて、いつもそれだけ純粋に興味があったので行動・質問攻めでした。遠慮して何もしないのはもったいないです。やってみないと分からないし、何もしないと何も起こらないです。

そんな感じで、僕がジャズにハマったのは自分だけで好きになっていったというよりも、他の誰がキッカケでしたね。全然関係ないような事が、後から思うと凄くターニングポイントだったり。なので、やらないといけないような事、面倒な事も普通は避けようとしますが、僕は以外に避けないです。何が繋がるか分からないんで、ギターとは全然関係ないような事でも「しゃーないな」の精神でやります。僕はいつも庭の草むしりも、100%集中してやります。音楽聴きながらとかしないです。そうやってひとつひとつの事を深く信じて集中してやっていることが、僕のギターにも自然と出ていると思います。

空手の先生に感謝です。空手やってなかったら今の人生、こうなってないです。僕は、凄くラッキーでした。でもあの大会の休憩で、ギターの話が僕の口からで無かったら何も起こってなかったかも知れないです。人生ってそんなもんです。完璧はなく、チャンスは、50/50なんです。空手の先生から頂いた3本のテープのアイデアから、僕のソーステープも生まれました。最初バークリーの図書館に置いて、そこから自分レッスンでも生徒さんにあげています。